11月定例会

「モータースポーツとコンディショニング」

~国内最高峰オートバイレースにおける栄養・食事管理の3年間の変化~

開催日 平成301115日(木)

講 師 オートバイロードレース全日本JSB1000クラス

 

H.L.O Racing代表・国際ライダー、行政書士 樋口 耕太 選手

 

 オートバイロードレース全日本JSB1000クラスH.L.O Racing代表・国際ライダーとして活躍する樋口耕太選手と、樋口選手のサポートを行っている管理栄養士の北脇盛吉氏をお迎えして、モータースポーツとコンディショニングについてお話を伺った。

 樋口選手は、23歳の時にレースデビューを果たし、24歳で国際ライセンスに昇格した。夢と現実を両立するという意志のもと、国際ライダーとして活躍する傍らで、行政書士の資格を取得し、現在は行政書士としても働いている。

 全日本ロードレースJSB1000クラスとは、全国にある5か所のサーキットを舞台に争われる国内最高峰のロードレースである。レースでは、最大で時速300㎞を超える速さで走行し、またカーブでは時速300㎞前後から時速60㎞程度まで急激な減速を行うため、その際に身体にかかる重力は相当なものになる。

 ロードレースと聞くと、華やかでかっこいいイメージを想像する人が多いかもしれないが、実際の試合前のサーキットのピットでは、カップラーメンを食している選手がいるといった光景がよく見られるそうである。当初の樋口選手の食事内容も少食かつ偏食であったが、3年前より北脇氏の栄養指導を受けるようになり、食事量が全体的に増加、特に少なかった野菜の摂取量が大幅に増え、多かったお菓子の摂取量が大きく減少し、食事の選び方にも気を遣うようになった。しっかりご飯を食べるようになった結果、スタミナが上がりレース後半でもタイムが落ちにくくなった。

 レース期間中の食事について、会場のサーキットは山奥などにあるところが多いため、現地での食材調達が大変であり事前の準備が大切である。現地周辺のコンビニで手に入るもの、現地に到着した後の食材の保管場所は必ず確認するようにしている。樋口選手は、炊飯器を持参してお米を炊いたり、日持ちのするカップスープや缶詰のフルーツ、エナジーゼリー等を持参したりして、レースに臨んでいる。レース前に固形物の食事を摂ると、内臓に重力がかかり胃の内容物が逆流することもあるため、レースの2時間前までに固形物の食事を済ませ、それ以降は特定のエナジーゼリーを飲むようにしている。樋口選手にとって、このエナジーゼリーを飲むことで試合モードのスイッチが入り、試合前に欠かせないルーティーンとなっている。

 樋口選手は同クラスの中では小柄な方であるが、自身に必要な身体作りというのは、増量でも減量でもなく、ベストなコンディションで試合を迎えることである。北脇氏は食事指導に加え、重力に耐えうる身体を造るためのトレーニングの指導や、試合後のマッサージなどのケアも行っている。

ライダーのチームに栄養士が帯同するというのは前例がなく、ライダーに特化した栄養指導法も見つからないのが現状である。樋口選手と北脇氏が歩んだ3年間は試行錯誤の連続だったそうだが、樋口選手は今シーズンの全日本ロードレースの全レースで自己ベストを更新し続けた。栄養士の垣根を超えた北脇氏のサポートもあり、二人の信頼関係はとても厚いものである。樋口選手曰く、信頼関係を構築することが選手とサポートする者にとって、必要不可欠なものである。

 

 

(文責 福祉 下岡伊織)