9月定例会 報告

スポーツ内科医とスポーツ栄養士の連携~適切なスポーツ貧血診療のために       

 

              (一社)日本スポーツ内科学会 代表理事 田中 祐貴先生

 

スポーツ内科は30年前からあったが、医師の数はそれほど多くなく、全国でスポーツ選手が治療を受けたくても受けられない「スポーツ内科難民」がみられるのが現状である。そのため日本スポーツ内科学会を立ち上げ、スポーツ内科を知ってもらえるよう頑張っている。

そもそも「スポーツ内科」とは、運動・スポーツにより生じる内科的問題や治療を行う医学と内科疾患(生活習慣病等)の予防や治療に運動・スポーツを積極的に活用する医学の2つがあり、前者は若いアスリートが対象となり、後者は高齢者が対象となる。アスリートのパフォーマンスを決める因子として「トレーニング」、「食事」、「休養」、「メンタル」がある。過度なトレーニングや不適切な食事、休養不足、過度なストレスがスポーツ内科医的問題となる。

代表的なスポーツ内科疾患として最も多いのが、「スポーツ貧血」、次いで「運動誘発性喘息」「無月経」「オーバートレーニング症候群」で4大疾患である。スポーツ貧血や無月経などのスポーツ内科疾患の予防や治療には、栄養面からの介入が不可欠であり、スポーツドクターとスポーツ栄養士、アスリートの連携がとても大切であると考えている。

スポーツ貧血の原因としては、①小・中学生の成長期に筋肉量の増加や運動量の増加により鉄需要増加で起こるもの、②鉄摂取不足やヘプシジン・ストレス・一過性腸管虚血により吸収低下で起こるもの、③月経や皮下出血、汗、消化管出欠などで鉄喪失増加によるものがある。症状として息切れ、動悸、倦怠感、そして筋肉への酸素運搬能力が低下しパフォーマンスの低下を引き起こす。アスリートはスランプや伸びの悩みと勘違いをしている場合もあり、調べてみるとスポーツ貧血であった。治療すると成績もあがったという例がある。スポーツ貧血の診断には、表1のようにヘモグロビンやフェリチンのカットオフ値を見ていく。最近、鉄不足だけでなくエネルギー不足も増えてきている。エネルギーが足りているかどうかは食事をみて判断するのはスポーツ栄養士の役目だが、血液検査で表2のようにエネルギー以外に総タンパクやコリンエルテラーゼの数値をみて判断していくとよい。

治療としては、スポーツ栄養による栄養指導と治療として鉄剤の服薬(フェリチン10ng/ml未満の場合)をするが、鉄剤の注射は行わない。注射による鉄の過剰投与は、心臓や肝臓に沈着し機能障害が一生残ることになるので、若い世代の鉄剤注射はよくなく、高校駅伝でも201812月に禁止となった。内服でも同じである。血液検査でフェリチンが150ng/ml以上になっていると注射をしていると判断する。

 

これからWeb等を利用し、「子どもたちへの啓蒙と専門職の情報交換などを図り、スポーツ内科を理解してもらえるように活動をしていきたい。ぜひ栄養士のみなさんとの連携を希望します。」と熱い思いを持った田中先生のコメントを頂いた研修会でした。                                              (文責 橋本 通子)