11月定例会について

11月定例会はコロナ予防対策のため中止いたしました。

活動が余儀なくされているため、情報の提供を考えました。

この度、スポーツ内科医 田中祐貴先生より原稿をいただき「栄養大阪」11月号に寄稿いたしました。

こちらにも同じく掲載いたします。ご一読ください。

 

スポーツ貧血

 

ゆうき内科・スポーツ内科 院長
田中祐貴

 

Ø  はじめに

スポーツ貧血はアスリート・運動愛好家に最も多くみられる内科・栄養学的問題である。スポーツ貧血になると、酸素運搬能力が低下し、息切れ・動悸などの症状やパフォーマンス低下(主に持久力の低下)を引き起こすため、スポーツ内科医とスポーツ栄養士が連携して速やかに対応出来れば理想的である。

 

Ø  スポーツ貧血の原因・症状・診断

スポーツ貧血の主な原因は「鉄欠乏」であり、その他に「溶血」などが関与することがある。「鉄欠乏」はさらに「鉄需要増加」「鉄摂取不足」「鉄喪失増加」に分けて考えると整理しやすい。図1のように原因は多岐にわたり、これらがいくつも複合的に関与する。

 

      図1 スポーツ貧血の原因

 

補足しておくと、「運動と鉄代謝」の中で、最近「ヘプシジン」というホルモンが注目されている。ヘプシジンは、消化管での鉄吸収やマクロファージからの鉄放出を抑制することで、体内で利用できる鉄の量を減らす鉄代謝調節ホルモンである。運動でIL-6が産生され、その結果ヘプシジンが増加するという説が有力である。

スポーツ貧血の症状としては、息切れ・動悸・倦怠感などあるが、典型的な貧血症状がなくても「パフォーマンスの低下」や「記録の伸び悩み」などあれば、スポーツ貧血を疑う十分な根拠となる。またアスリートにおいては、高い心肺機能や運動能力によって貧血症状がマスクされることもあり、メディカルチェックで偶発的に見つかることも珍しくない。

 スポーツ貧血の診断には、Hb(ヘモグロビン)、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、血清鉄、フェリチン(貯蔵鉄の指標)の測定が必須である。血清鉄とフェリチン低下を伴う小球性低色素性貧血を認めれば、鉄欠乏性貧血と診断する。日本鉄バイオサイエンス学会 の『鉄剤の適正使用による貧血治療指針』改訂〔第2版〕によると、日本人のHb値の正常下限は男性13.0g/dL、女性12.0g/dLが妥当とされている(また男女ともフェリチン12 ng/mL未満が鉄欠乏とされている)。しかし高い運動負荷がかかり末梢での酸素需要が大きいアスリートにとっては上記の値では十分と言えず、一般人よりやや高めの基準を設ける必要があると考えられている。しかしスポーツ貧血について国内外でガイドラインはまだ設けられておらず、文献によって診断基準にバラつきがある。私を含む多くのスポーツ内科医は、男性アスリートでHb14.0g/dL、フェリチン 30ng/mLを、女性アスリートでHb12.5g/dL、フェリチン20ng/mLを正常下限と考える立場をとっているが、検査値だけでなく症状やパフォーマンス低下の有無や程度、前回測定値からの変化なども加味して総合判断する必要がある。

 

Ø  スポーツ貧血の治療

 スポーツ貧血の主な原因は「鉄欠乏」であり、基本的には一般的な鉄欠乏性貧血と同様の治療方針となる。すなわち治療は「食事療法」と「薬物療法(鉄剤内服)」に大きく分けられ、Hbやフェリチン値、症状やパフォーマンス低下の有無や程度、今後の練習や大会のスケジュールなどから患者(選手)本人と相談し総合的に判断し治療方針を決定する。

食事療法については釈迦に説法なので詳細は割愛するが、「鉄・ビタミンC・タンパク質」を多く含む食品を出来る限り毎食摂取することがポイントだろう。もちろんそれ以前に適切なエネルギー摂取が出来ていない場合にはそれに対する介入も必須である。

食事での鉄強化や鉄のサプリメントによってスポーツ貧血の予防はある程度可能だが、中等度以上のスポーツ貧血では食事療法だけでは速やかな改善が見込めないこともあり、薬物療法が治療の第一選択となる。目安としてフェリチン12ng/mL未満は明らかな鉄欠乏であり、鉄剤内服とすることが多い。

 

 スポーツ内科医・スポーツ栄養士の数がもっと増え、連携が進み、地域・世代・競技など問わずスポーツ貧血を抱えるアスリートへのサポート体制が整うことを望む。

 

                                                                                                                                                                                                             以上