アスリートの栄養管理のための旅支度
―食事アセスメントの測定誤差―
大阪樟蔭女子大学 健康栄養学学科 角谷雄哉准教授
●食事アセスメント計画
食事を調べるためには「食事アセスメント」と「食事トラッキング」の二つがある。「食事アセスメント」とは、選手の食事現状を知りたい時に使用するものである。現段階の食事で必要カロリーはオーバーしていないのか、カルシウムは足りているのかなどを知るときに使用する。いわば例えるなら家計簿のようなものである。「食事トラッキング」とは選手の態度や行動を変えたい時に振り替えるきっかけとなる記録であり、理解するために使用するものである。例えるなら日記といえる。食事アセスメントと食事トラッキングを混同しているケースが多いが、使い分けて考えると頭の中を整理することできる。食事アセスメントは食事調査から得た数字をどう扱えばいいのか日常から考えるべきである。
① 対象物はなにか。食事の何を知りたいのか
人は食事をして消化吸収され体には入るのは栄養素となる。食べる人からは栄養は見えないため、栄養士の役目としては食品・料理を栄養素で考え、食品・料理として翻訳し伝える事である。さらに競技レベルの高いスポーツ選手は、日常からサプリメントの使用をされていることは無視できない。サプリメントの種類によって大きく異なる場合があり、例えば形状がグミタイプだと知らず知らず一気にたくさん摂取してしまうリスクがある。通常の食事に加えサプリメントで付加された栄養素は、食事アセスメントで明らかにする必要がある。
② 対象期間を知る。いつの食事を知りたいのか
一般的には健康を対象とするには数か月・数年の食事となるが、スポーツ栄養は試合に向けてピークをあわせていく週間レベルや数十分から数日で調整する短い期限があるのが特徴である。競技内容・シーズンによっても違ってくる。
●食事アセスメントの測定誤差~「申告誤差」「日間変動」~
「申告誤差」というのは対象者による自己申告に基づく調査方法において実際の値から一定程度ずれた値が申告されることで起こる誤差である。実際に小さいと過小申告(体重でよくある)、実際よりも大きいと過大申告(身長でよくある)、これは意識的もあるが無意識の場合もあるので注意しないといけない。申告誤差を考慮しなければ、選手と栄養士の間に摂取カロリーと必要カロリーに差がでてくることになる。
「日間変動」は食べるものの種類や量は毎日少しずつ違っており、昨日食べたものから計算した摂取量=習慣的な摂取量とはいえないのである。栄養素摂取における日間変動はどうしても差がでてくる。個人の習慣的な摂取量をとらえるには長期間の調査が必要になり、短い調査日数で得た摂取量には大きな誤差が含まれてしまう。(日間変動±10%以上の誤差の可能性がある)
●食事記録アプリを用いたエネルギー摂取量推定の妥当性
近年各種類の食事記録アプリがあるが、最近の研究では30-40%差が出る可能性もある。選択する料理や食材がすくないこともあり、エネルギーはある程度順位づけできるが、他の栄養素、特にNa・食物繊維関しては充足している・不足していると判断するのは現段階では困難である。
●日常でのスポーツ選手の食事アセスメントでは、誤差を考慮するなど様々な側面から栄養素を解釈し、目標を明確にすることでパフォーマンス向上につながるサポートを心がけたい。
(文責 瀬戸口)